◆3才から12才まで義父から虐待を受けていました。「半殺しって知ってるか、死なない程度にすることだ」「お前は口で言ってもわからないのだから、半殺しにしてやる」と言われてベルトで身体中を殴られたり、ベランダの手すりに逆さ吊りにされたりしました。殺してはくれなくて、あくまで「半殺し」でした。他人にはバレないように、洋服で隠れる部分だけを痛めつけるのです。だから見えない部分はいつも全身アザだらけでした。義父は薄笑いを浮かべ、「今日はどれにするかな? 選ばせてやろうか?」などと言いながら、毎日ベルトを選んでいました。
身を切り裂かれるような痛みに飛び上がって逃げようとしても、腕をつかまれてどうすることもできません。そういう時には、天井がグルグル回って気が遠くなりました。声にはなりませんでしたが、「死んじゃえばもう痛くないのに…」、「お母さん助けて」と、もうろうとした意識の中で叫んでいました。そういう時、母はいつも背中を向けて家事をこなし、私を見ようとはしませんでした。その時に私を助けたら、自分の命まで奪われると思ったからだと母は言います。そんな母も義父から毎晩のようにこぶしで殴られていたので、いつも顔が腫れ上がっていました。義父はまた、しばしば私を全裸にして目の前に立たせ、その姿を眺めながらお酒を飲んでいました。
私は、自分が悪い子だからお仕置きされても仕方がなかったのだとずっと思っていました。母がやっとの思いで離婚して、義父と離れて生活するようになっても、母が義父の悪口を言うと私は「仕方ないよ、お父さんも私にどう接していいかわからなかったんだよ」と答えていました。私は親思いの物分りのいい子でした。そうやって自分を納得させるしかなかったのかもしれません。でも私が心底から義父を許し、自分の人生に納得していた訳ではないことは、結婚後に思い知らされることになりました。
男性恐怖症の私でも、「この人なら大丈夫!」と思える男性と出会い、好きになって結婚しました。義父とは正反対のとても優しい夫です。そして女の子が生まれ、何不自由ない幸せな家庭を手に入れました。ところが、私の心の奥深くに隠れていた幼児期虐待の後遺症がある日姿を現し、私の幸せを破壊し始めました。私が虐待を受け始めた年齢に長女が達した頃です。誰にも負けないくらい優しい夫。かわいい子ども。それは私がよくわかっているはずなのに。やっとつかんだ幸せな家庭のはずなのに。
長女が3才になった頃、叱っても言うことを聞かない時、「私の幼い頃は口答えも許されなかったのに、この子はどうして…?」と思ってしまい、感情がコントロールできなくなったのです。叩いてしまうこともしばしばありました。泣いている長女を見ると本当に自分が情けなくなりました。思い切り叩く訳ではないけれど、暴力の怖さや影響力は自分がよくわかっているはずなのに、と思うのです。長女の泣き顔は、私の幼い頃のトラウマと重なりました。
私の恐怖や怒りは夫にも向かいました。仕事から疲れて帰ってきた夫が少しでも鋭い目つきになると、私は物凄い恐怖感でいっぱいになり、激しい動悸に襲われました。気がつくと、私は怒り狂って自分の腕に噛み付いたり、髪の毛をむしったりしていました。
長女に続いて長男が生まれましたが、私は子育てにすっかり自信をなくしてしまいました。私は母親失格ではないか、この子たちと離れた方がよいのじゃないかと思うようになりました。自分でコントロールできない自分の心。荒れ狂う私の姿を見て、夫も「離婚」という言葉を口にするようになりました。深刻な家庭の危機がやって来ました。
義父による暴力や虐待の恐怖から逃れ十年以上も後に、大好きな人と結婚して、子どもを産んだ今になって、後遺症が出てくるとは、なんと恐ろしいことでしょう。義父に対して、「おまえのせいだ。私の家族まで苦しめるのか。私はまだ苦しまなきゃいけないのか」と殺してやりたい気持ちになりました。だけど今さらどうすることもできません。
しかしそんな私でも夫は諦めませんでした。夫は辛抱強く私を支えてくれました。夫は私の心の傷を理解しようと懸命です。虐待を受けたこともない夫なのに。そんな人に私の気持ちが分かるはずがないのに。
夫は私を受け止めようと必死です。その気持ちが痛いほどわかります。私はずっと愛情をもらえないまま成長しました。だから心の中にぽっかりと穴が開いているのです。夫はそういう私の心の隙間を愛情で少しずつ埋めてくれました。
子どもに対する私の対応も、夫がいつもフォローしてくれているおかげで、少しずつですが変わってきました。長女に私の幼い頃を重ねる気持ちが薄れてきました。今でも大声で怒鳴ってしまう事は時々ありますが、子どもに接する自分の態度をいちいち責めていてはダメなんだと思うようになりました。最近は、叱った後は子どもをギュッと抱きしめてあげるように努めています。それは私が一番してほしかった事です。私は子どもに対しても自分に対してもだんだん優しくなりました。
夫には感謝の気持ちでいっぱいです。結婚して6年が過ぎ、やっと私も普通の人間らしくなってきました。世界一優しい夫のおかげです。髪をむしる癖もなくなってきました。生きていて良かったと思えるようになりました。私にもだんだんわかってきました。私が悪いわけではなくて、虐待をする人間が普通じゃないんだ。世の中にはひどい人間もいるけど、その分いい人間もいる。それに、自分を責めてばかりいたらいつまでも前に進めない。いつまでも義父に振り回されてたまるか!私はもう虐待をするような人間に負けたくありません。これ以上、子どもも夫も苦しめたくないです。
虐待被害者の方々の気持ちが私にはよく分かります。きっとみんな、死んだ方が楽だと思っているはずです。自分が幸せになれるなんて思ってないかもしれません。でも私は自分の体験から言えます。みんな絶対幸せになれるから大丈夫だってこと分かってほしいです。自分を傷つけるようなことをしてほしくないです。生きていればきっといいことがある。生きていることのすばらしさを知ってほしい。 |