そうなの?どうなの?門川市長!京都のこれから発信局

京都市

現代美術家 宮永愛子さん × メディアアーティスト 落合陽一さん × 京都市長 門川大作

#4 -京都芸大移転の意義-

  • 落合陽一さん
    落合 陽一さん
    メディアアーティスト。京都市立芸術大学客員教授、筑波大准教授。2025年大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーを務める。新しい自然や世界の概念として、「デジタルネイチャー」を提唱。
  • 宮永愛子さん
    宮永 愛子さん
    現代美術家。令和元年芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。近年では高松市美術館で個展を開催、また京都市京セラ美術館、釜山市立美術館(韓国)等、国内外の展覧会に多数参加。
  • 門川大作門川大作
    門川 大作
    京都市教育長を経て、2008年2月に第26代京都市長に就任。現在4期目。

京都芸大が
京都駅東部エリアへ!
アートが
まちづくりの軸になる

長い時間軸のなかで  
回帰と変化を繰り返すアート
門川
本日はメディアアーティストで京都芸大(市立芸術大学)客員教授の落合陽一さん、京都出身で現代美術家の宮永愛子さんをお迎えしました。ここ銅駝美術工芸高校の校舎は元々、明治2年に日本で初めて、町衆がつくった64の「番組小学校」の一つ。落合さんがコンピュータと出会ったのも小学生の頃だそうですね。
落合
8歳の頃です。当時は近所の画家に絵を習い、作品を作ったり。日本のメディアアーティストの多くを生んだ筑波大に進み、僕も後に続きました。LEDなど動く素材が不可欠なメディアアートは時間の流れ(保存性)に弱い芸術。メディアと時間の関係を考えるとき、持続可能性のある京都から大きなインスピレーションを受けます。最近始めたお茶の歴史を見ても、京都の文化は新しいものをすっと受け入れる印象ですね。
門川
そうですね。さて、宮永さんの実家は歴史ある東山窯ですが、斬新なインスタレーション(※1)作品をつくるようになったきっかけは?
宮永
留学したイギリスで、自分の作品が人々にどうしても届かない経験を重ねて。それはまるで分厚いガラスがあるようで、自分のアートとは?と真剣に考えました。広い世界に触れ、帰国後はスケールの大きな作品を作るように。空間の歴史や記憶を読み進めながら何重も回って過去につながり、新しいものが生まれる。よく使う素材のナフタリンは時間が経つと変容し、私たちの変化も示唆する。何百年も続く世界に育った自分が、短い単位で変化するものをつくることに魅力を感じています。
※1 オブジェや装置等を配し、空間全体で表現する芸術作品。
対談風景
新・京都芸大のコンセプトは
「テラス」、
そして「十字路」
門川
お二人のお話に、様々な可能性を引き出す環境の大切さを実感しますね。2023年、京都芸大と銅駝美工(「市立美術工芸高」に改称)は京都駅東部エリアに移転。その南の東九条には、アート集団「チームラボ」や米国発の体験型アート施設「スーパーブルー」も。差別をなくす長い取組の歴史を有するこの地が大きく変わる。今年は「全国水平社創立宣言」から百年。文化芸術の力で人々がポジティブに、さらに多様性と包摂性ある社会を築いていきます。
宮永
京都芸大が駅近にくるなんて、ワクワクします。学内の専攻を超えて共有する新設の工房も好感。いろんな分野が交差することで、違う次元のものが生まれますね。
門川
新・京都芸大のコンセプトは「テラス」、そして「十字路」。単なる大学移転でなく、文化やものづくりの歴史が時空を超えて交差し、過去と未来の千年を見通した京都のまちづくりに魂が入る。敷地の一角はスタートアップの拠点にと考えています。
落合
ポスト資本主義のあり方として、カーボンニュートラルや持続可能性を考える現代、デジタル技術による大きな変化が起きています。新技術と連携した若い人、面白いプロダクトも出てくるでしょう。NFT(※2)でもアートが目玉。アートとテクノロジーの非常に面白い接点も生まれています。
※2 Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略。
デジタル分野の作品がコピーでなくオリジナルだと証明する技術で、これを用いたデジタルアートの取引に注目が集まっている。
対談風景
大きな変革の時代  
アートが果たす役割とは
門川
手段としてのテクノロジーが、社会そのものを変える時代。改めてアートの果たす役割とは?
宮永
薬のように病気を直接治せはしないけれど、生きる力につながり、世界の見方を変えるのがアートだと思います。大事なのは「これ好きだな」と言いやすい雰囲気を作ること。誰もが気軽にアートに触れ、同時代に生きる人の作品を見たり購入したりすることで、時代をともに作る価値を感じてもらえたら。学生さんには、より深い思考で作品に向き合ってほしい。そして「面白いね。これ欲しい」という人が現れたら素敵ですね。
門川
コロナ禍で孤立・不安を感じる人も多く、心に健康をもたらすのもアート。この間、人間が人間らしく生きるために文化芸術が不可欠なことを我々は痛感しました。そして、日本の文化は一人一人が築いてきたもの。「生活文化」の重要性を掲げ、文化庁も京都に全面的に移転してきます。
落合
1万年以上続いた縄文時代は自分で道具をつくり装飾を加え、みんなアーティストだった。そして現代、狩猟採集から農耕へと同じくらいの大変化が起きている。かつてのように全員がアーティストになるのかもしれないし、違うものが生まれる可能性も。新しい価値観から既存の枠を飛び出したアートが生まれ、そこに投資するビジネスパーソンも現れてほしいですね。
門川
「百のほめ言葉より一つの購入を」という切実な声も。そこで始めたのがArts Aid KYOTO(京都市 連携・協働型文化芸術支援制度)です。企業版ふるさと納税制度なども活用し、アーティストを応援してもらう仕組みをさらに大きくしたいですね。
対談風景
今、京都ができることとは
落合
京都は能装束の刺繍ならここ、扇子はここ、足袋はと、伝統産業のすべてが連関し、コミュニティを形成している。そのなかに新しい形のアートが噛み合い百年後さらに面白いものが—— 京都が芽生えの地となり、全国を牽引してほしいです。
宮永
教育現場では、技術だけでなく思考を育てる環境も充実してきています。銅駝美工も移転を機に新たな教育構想を検討中と伺っていますが、未来を創る側として、私も何か一緒にできたらと思います。
門川
明治維新で京焼・清水焼、西陣織・京友禅など基幹産業の顧客がどっと東京に移ったとき、京都は「今こそ本物を」と京都芸大や銅駝美工の前身で、公立として日本初となる画学校をつくりました。今、京都は財政危機で大変ですが、先人に学び、変化が激しい今こそ文化を基軸に人々を、経済を元気にするまちづくりを進めたいと思います。本日はありがとうございました。

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