祝・文化庁移転
京都に息づく生活文化を未来へ

2022.12.17

写真左:ゲスト:壬生寺貫主 
松浦 俊昭さん

■昭和42年京都市生まれ。壬生寺貫主、唐招提寺副執事長。人と人をつなぐ活動を中心に、法話講演等を通じて地域文化の普及・継承に尽力
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写真中央:ゲスト:華道家・写真家 
池坊 専宗さん

■平成4年京都市生まれ。次代を担う華道家として多くの花展に出瓶。写真家としても活躍。第18回京都現代写真作家展新鋭賞を受賞(2021年)
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写真右:京都市長 
門川 大作

■昭和25年京都市生まれ。京都市教育長を経て、平成20年に第26代京都市長就任。現在4期目

[写真中央]池坊専宗さんによる水仙の生花(しょうか)(※)。「一見質素だが、水仙が水仙らしく、命が感じられるように」(専宗氏談)。懸命に生きる花の命の凛とした美しさが際立つ。
※生花
池坊の3つの形式の一つで、草木(そうもく)の生きる姿を表現する形式

若い世代を中心に、いけばなの普及に取り組む池坊専宗さんと、地蔵盆など地域の風習を守り伝える松浦俊昭さん。文化の継承にご尽力のお二人と門川市長が、京に息づく暮らしの文化について語り合います。

草木の命に人の命を重ねる暮らしの文化・いけばな

門川:いよいよ3月27日に文化庁が京都に移転してきます。文化庁では、生活文化の振興、地域文化の掘り起こしや磨き上げを掲げていますが、京都発祥の文化といえばいけばなが思い浮かびます。池坊さんは560余年の歴史を有する華道家元の家にお生まれですが、小さい頃から家業を意識されていたわけではないそうですね。

池坊:はい。子どもの頃は野球に夢中で、鴨川でよく練習していました。お花のお稽古をほっぽり出したことも。高校では数学者を目指して慶応大学理工学部に進学。しかし、いざ入ってみると数学が自分に合わないと気付き、東京大学に入り直して法学を学びました。

門川:法曹界をはじめ、さまざまな選択肢がある中、どうして華道を選ばれたのですか?

池坊:大学卒業後に師事した先生の影響が大きかったですね。愚直なまでに花の命と向き合う姿勢から多くのことを学びました。いけばなは仏様の前に花を供える習慣から生まれ、長い時を経て精神性を伴う華道へと発展しましたが、「命を見つめる」という根っこは今も変わりません。草木(そうもく)の命と自分の命を重ね合わせる時間は、豊かで貴重なもの。それを多くの人に感じてもらいたいと思い、いけばなの道を選びました。

門川:今は、東京でいけばなを教えておられますが、若い世代の方々にはどのような印象をお持ちですか?

池坊:和の文化が逆に新鮮なのか、皆さんとても熱心です。竹から器を作ったり、山に花を採りに行ったり、手間のかかることも楽しんでいて、日本文化の次代への浸透・継承には期待感を持っています。

地蔵盆がきっかけとなり活気づく地域コミュニティ

門川:京の夏の風物詩・地蔵盆も、いけばなと同じく京都発祥ですね。

松浦:はい。そのきっかけは、京都のまちの8割を焼き尽くしたという江戸末期の「天明の大火」。焼け野原になった京のまちで、心の拠り所を求め、お地蔵様をお祀(まつ)りしたことが、やがて町内安全や子どもの健やかな成長を願う年中行事・地蔵盆に。昔はトウモロコシやサツマイモだったお供え物が、スナック菓子になり、最近では宅配のファストフードという地域も(笑)。時代の趨勢(すうせい)はありますが、お地蔵様への感謝、人々が心一つにという願いは変わりません。

池坊:いけばな発祥の地・六角堂でも毎年開催されていて、地蔵盆は私にとっても身近な存在です。希薄になりつつあるご近所の絆をつなぐためにも大切な営みですね。

松浦:「遠くの親戚より近くの他人」。そんな言葉もありますが、顔の見える関係のお陰で、災害時に地域の人が一人暮らしのお年寄りのもとへ救助に向かい、無事だったという事例も。また、地蔵盆をされている町内では、子どもの非行率が低いというデータもあります。

門川:素晴らしいですね。私もかつて引っ越しをした際、新しい土地で地域の人たちと仲良くなれたのは地蔵盆のお陰です。また、まちの至る所にある地蔵堂は、どれもきれいに浄められ、花が供えられている。京都に来られた方にそのことをお伝えし、見に行かれると感動されます。私も誇らしく思っています。

京の夏の風物詩・地蔵盆の「数珠回し」。子どもたちが大きな数珠を囲み、僧侶の読経に合わせて順々に回す。ゲーム大会など子ども向けの催しもあり、世代を越えた地域交流の場に。

コロナ禍を乗り越え「人」がつなぐ京都の文化

門川:長引くコロナ禍によって、地蔵盆をはじめ、あらゆる文化・地域活動が大きな影響を受けました。そんな中での松浦さんの地蔵盆などの意義を踏まえたご活躍が心強いですね。

松浦:一昨年、地蔵盆を開催した地域は4分の1ほどに。3年やらないとやり方の記憶も薄れ、続けていくことが難しくなる。そこで昨年、壬生寺では感染対策を徹底しつつ、長さ108メートルの数珠を使った「日本一の大数珠廻しの会」や「地蔵盆フェスティバル」(市後援)を開催。また、地蔵盆の再開を支援する相談会では150件もの相談が寄せられました。

門川:コロナ禍の下、人とのつながりの大切さが再認識されました。3年ぶりの地域行事に寄せてもらう機会も多いのですが、感染対策がなされた会場はいずれも想定以上の賑わい。皆さん、待ってはったんやなと。そう感じて、嬉しくなりますね。

松浦:壬生寺に伝わる「壬生狂言」は台本がなく口伝ですが、鎌倉時代の創始以降700年間、一度も途切れず続いてきました。この間、壬生寺は3回全焼していますが、「人のつながり」があれば伝承される。伝統や文化を守るために、人のつながりは欠かせません。

門川:池坊さんはこれからの京都・日本の文化の若きリーダーとして頼もしいです。京都が伝統文化を未来につなぎ、文化首都として発展を続けていくために、大切と思われることは?

池坊:長い年月をかけて蓄積された文化は、京都のポテンシャルの源泉。しかし、その上澄みをすくって提供するだけでは、次第に先細りしてしまうでしょう。文化庁の移転を機に、京都がこれからも文化の中心地であり続けるためには、京都の文化に興味を持ち「学びたい」と望む市民、学生、外国人や観光客も含め、国内外の多くの方との絆をつなぐ。そして、人から人へ、しっかりと伝えていくことが大切だと思いますね。

門川:お二人がおっしゃる通りですね。これからも「人のつながり」を大切にしながら、京都を愛してくださる皆様とご一緒に、京都を未来へ。そして、文化の力で京都を、日本を元気に。暮らしの豊かさにもつなげてまいります。本日はありがとうございました。

文化芸術の振興を目的として組織・機能を強化。旧京都府警察本部本館を改修した庁舎で、3月27日から業務開始。