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多様な家族のカタチ。子どもと“はぐくみさん”の素敵な関係を育むまちへ

第5回:河瀨直美さん×森永和美さん×門川大作市長

profile

河瀨 直美 さん

奈良県出身の映画監督。世界の映画祭で高い評価を受ける。10代の育成にも力を入れ
る一児の母。

森永 和美 さん

京都市内で4人の「息子」と暮らす。2人と特別養子縁組され、さらに2人の養育里
親「はぐくみさん」となった。

門川大作 京都市長

京都市教育長を経て、2008年2月に第26代京都市長に就任。現在4期目。

血のつながりを超え、暮らしが育む「家族」

門川:

本日のゲストは、世界の河瀨直美映画監督と、一定期間、里親となる養育里親「はぐくみさん(*1)」としてご活躍の森永和美さんです。河瀨監督は、特別養子縁組をテーマに映画『朝が来る』を制作。感動しました。

河瀬:

原作は辻村深月さんの小説。大伯母の養子として育った私にとって運命的な出会いでした。血がつながらなくても、一つ屋根の下で暮らす毎日の積み重ねが「家族」をつくる。様々な事情で育てるのが難しい親と、育てたい親とをつなぐ特別養子縁組は、子どものための制度だと、心血を注ぎました。

門川:

映画では実際に特別養子縁組された家族もご出演。心打たれました。

河瀬:

はい。迎えた子をおばあちゃんが”我が太陽“だと言うんです。「一つの幼い命がやってくることで家族に光が差す」と実感しました。このリアリティを伝えたい! そう思ったのです。

門川:

森永さんは京都市内で4人のお子様を見事に育てておられます。

森永:

長年続けてきた不妊治療をあきらめ養子をと思ったところ、当初夫は大反対。なんとか説得し、長男を生後5カ月で迎えました。初の子育てはしんどいながらも楽しく、次男も養子に。子育てが日に日に楽しくなって、さらに2人の養育里親に。何とかなるだろうと本当に楽天的で(笑)。

門川:

ご主人も今では最大の理解者とか。

森永:

そうですね。子育て中の一番の事件は、上二人が小学生の時のこと。家に遊びに来た友達が突然我が家に現れた赤ちゃんについて尋ねるので、次男が「もらってん。僕らももらわれてきてん」と。すると友達は「かわいそうだ」と騒ぎ始めて。「ああ、どうしよう」と思った時、それまで自分は養子であることを友達に話していなかった長男が「僕らはかわいそうじゃない!よかったんや」とハッキリ言ってくれた。すごく嬉しかったですね。

門川:

森永さんの愛情がしっかり通じていたんですね。

河瀬:

映画でも「かわいそう」というイメージの描き方が多いのですが、「こんなに幸せなんやで」と伝えたいです。

門川:

アジア系の養子が認められていない州の制度を乗り越え、子を迎えられたアメリカのある高名な学者の方にお話を伺ったことがあります。「この子の存在が至上の喜び」と話されるのを前に、日本にもまだ残る多様性に対する負のイメージを払拭しなければと感じましたね。

河瀬:

スピルバーグ監督など著名な方が、インド系やアフリカ系の養子を迎えられています。「血のつながりだけじゃない。地球の子だ」と。価値観をしなやかにアップデートさせることが社会をより成熟させると思います。

*1 はぐくみさん=実の親が育てられるようになるまで一定期間養育する「養育里親」の京都市の愛称

里親同士、悩みを分かち合える拠点「ほっとはぐ」

門川:

今、市内の児童養護施設等では約400人の子どもが暮らしています。お寺などが戦災孤児などを育ててくださった尊い経過で施設が整う反面、家庭養育は約15%と低い。家庭的養育、里親養育も大切で、充実へ、取り組んでいます。そんな中、里親さんが悩みを相談したり、里親同士のつながりを作る場として昨秋、下京区に『きょうと里親支援・ショートステイ事業拠点「ほっとはぐ」』を創設。ご好評いただいています。

森永:

私もさっそくお母さんたちと利用しました。私自身、最初の子どもを託された21年前は赤ちゃんのことが全くわからず、すごく不安で。でも、同じように養子を育てる方と出会い、話すうちに不安が少なくなりました。

門川:

ネットワークの力は本当に大きい。皆が学び合い、相談できる。そういった場所をさらに充実させていきます。

命を守り育て、持続可能で魅力溢れる社会へ

門川:

命を守り育てることは、「持続可能な社会」に欠かせない視点。本市では「子育て環境日本一」を目指し、7年連続で保育所待機児童ゼロなどを実現する中、さらにきめ細かな取組を大切にしています。例えば、民間の方々と連携を深め、ご家庭への食品等の配送を機に困り事に「気づき」、必要な支援に「つなぐ」政令市初の「子育て家庭への食品配送・見守り活動」。昨年伏見区・中京区(*2)、左京区(*3)で開始。コロナ禍の今、孤立しがちな方への支援につながっています。そして、今、最大のテーマが「はぐくみネットワーク」を広げ、家庭的な養育を進めること。森永さんのお姿を見て、背中を押される方も多いと思います。

森永:

「実の子でも大変なのに他人の子を育てるなんて」と言われますが、子どもは育てるものではなく、育っていくもの。逆に私たち大人が育てられていて、本当に里親になって良かったです。里親会はじめ多くの方が相談に乗ってくださる。だから、迷っている方には、「安心して里親になって下さい!」と伝えたいですね。

河瀬:

養親さんは「預かっている命」という意識があり、子どもを良い距離感で見守れる側面も。自分や夫婦が成長できる体験も重なっていく。親になるとは、そこに飛び込んでみることかなと思います。

門川:

人は血のつながりだけでなく、ご縁のつながりの中で成長していくものなんですね。京都市は43年前に「世界文化自由都市宣言」を行いました。人々があらゆる違いを超えて集い、多様性を重んじ、新たなはぐくみ文化を創造していく。その理念を大切に、これからも市民の皆さんと共にコロナ禍をはじめ様々な社会的課題を乗り越え、未来の京都を築いてまいります。本日は、ありがとうございました。

*2 あだち福祉会、こども宅食応援団が運営主体
*3 市社会福祉協議会、ライオンズクラブ、335-C地区が運営主体

里親に関することは、京都市児童相談所(075-801-2929)までお問合せください。