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コロナ禍で考えるマイクロツーリズムと京都観光の未来

第4回:星野佳路さん×門川大作市長

profile

星野 佳路
星野リゾート代表

所有と運営を一体とする日本の観光産業で、いち早く運営特化戦略をとり、
運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換。

門川大作 京都市長

京都市教育長を経て、2008年2月に第26代京都市長に就任。現在4期目。

危機の時代に生きる「京都モデル」

門川:

本日は京都市観光振興審議会相談役で、星野リゾート代表の星野佳路さんと語り合います。ウィズコロナ社会の新たな観光モデル「マイクロツーリズム」が注目されていますね。

星野:

近距離旅行を楽しむ「マイクロツーリズム」は、観光がコロナ禍で生き残るための重要な手段。実は、私が以前からオフシーズン対策として力を注いできたものなんです。

門川:

京都市も最初の緊急事態宣言が解除された昨年5月以降、京都市民のみなさんが地元を楽しむ「地元応援!京都で食べよう、泊まろうキャンペーン」を展開。約900の飲食店・宿泊施設に参加いただき、約6万7千人の方に利用いただきました。意外と京都を知らない京都人がその魅力を再認識する、良い機会になったと好評でした。

星野:

地元の方が「京都らしい」と気に入るホスピタリティ、サービスは、どなたにも自信をもって提供でき、持続可能性にも繋がります。

門川:

「国連 観光・文化京都会議2019」(*1)の講演で紹介した「京都モデル」は、「観光」と「文化」の力であらゆる社会的課題の解決、SDGsの達成を目指すもの。この会議で採択された「観光・文化京都宣言」にも明記されました。その取り組みの一つが季節・時間帯・場所の「三つの集中」の打破。奇しくも新型コロナ感染拡大防止策に重なりました。京都市では飲食、宿泊など業種別にガイドラインを作成し、アドバイザーチームが個別の相談にも応じて実践中です。

星野:

観光業界は非正規雇用が約75%ですが、各地で新たな経済基盤をつくるには正規雇用への転換が必要。そのためには、需要の平準化が欠かせません。京都は冬に京都・嵐山花灯路や非公開文化財の特別公開を行う「京の冬の旅」などオフシーズンをなくす仕掛けが次々に。全国の観光地にも取り入れてほしい視点です。

門川:

この15年、様々な取り組みにより、入洛者数の閑散期と繁忙期との差が3.6倍から1.3倍に。これをウィズコロナ時代、「三密」を避けるため、また安定した雇用にするためにも、徹底していかなければなりません。

星野:

同時に伝統的な京町家を民泊に充てたりもしていますよね。存亡の危機にあるものを守るなら規制緩和する施策も有効です。

門川:

一方で、厳しい規制も。住居専用地域の民泊(住宅宿泊事業)は、1月中旬から3月中旬までと、オフシーズンのみ営業を認めるようにしています。

星野:

シーズン対策として面白いアプローチ。マスツーリズム(*2)からエコツーリズム、個人旅行へと変わる時代、需要を分散して混雑を回避することは、非常に重要ですね。

*1 国連 観光・文化京都会議2019:国連世界観光機関 (UNWTO)とユネスコの主催のもと、世界約70ヶ国から各国の観光・文化大臣らが参加。SDGsの達成に向けた観光と文化の力の活用等について議論が交わされた。
*2 マスツーリズム:戦後の経済成長に伴う観光の大衆化

コロナ以前に戻さない新たな京都観光へ

星野:

観光は、実は直接携わらない市民にとっても重要な産業。雇用が増えれば、家族を含め人口が維持されて市の税収に繋がり、幅広い市民にメリットが広がる。こうした経済的恩恵を力強く伝えることも大事だと思います。

門川:

仰る通り。観光消費額はこの5年間で1.6倍の約1兆2400億円に増加。市民の年間消費支出額の5割超に相当。雇用への効果は約15万人。今後も大事な産業です。同時に、新たに策定した「京都観光行動基準(観光モラル)」では、観光事業者・観光客・市民の三者が、観光を通じ文化・コミュニティの継承発展に繋がる取り組みを共にしようと呼び掛けました。また、京都議定書誕生の地、IPCC京都ガイドライン(*3)採択の地として一昨年、日本の自治体の長として初めて、CO2ゼロ宣言をし、条例にも明記。SDGsや環境保全と観光との融合は、どれも困難な課題ですが、京都の観光が牽引役になれば、世界は変わると感じています。

星野:

私達にとっての課題は環境対策とお客様の快適性、そして経済合理性を同時に叶えること。コスト削減できる対策なら持続可能で、客室のペットボトルをやめ、プラスチックごみ廃棄ゼロを目指しています。

門川:

まさに「売り手よし、買い手よし、世間よし、未来よし」の四方よしの取り組みで、素晴らしい!京都市では給水スポット増設を進め、マイボトルを推奨。私も常に携行しています。

星野:

「2030年にインバウンド6千万人」を掲げる日本。実現には毎年のように訪れるファンづくりが不可欠で、京都はそのモチベーションが持てる唯一の場所です。NYやロンドンから「京都には何度も!」と思ってもらえるには? それを考えるのが、京都の役割だと思います。

門川:

国内客を含むと、京都のリピーターのうち、5回以上訪れた人が8割。回数を重ねると、次第に奥深い所へ。京都の魅力である多様性・重層性を創造的に発信し、京都ファンの方にお伝えしていくことが大事ですね。星野さんは「100年後、観光業は世界で最も大切な平和維持産業になる」と仰いますが、全く同感。これからも良いお知恵を頂きながら、コロナ前の姿に戻すのではなく、市民の豊かさの向上や地域、社会の課題解決に繋がる持続可能な観光振興に取り組んでまいります。

*3 IPCC京都ガイドライン:パリ協定の実施に不可欠な各国の温室効果ガス排出量の算定方法を示したガイドライン