テーマ
「食品ロス」をなくすために、私たちが今できること。
第3回:中埜裕子さん×中村朱美さん×門川大作市長
profile
中埜裕子さん
株式会社Mizkan Holdings専務取締役。1999年にミツカングループ本社入社。
2016年より専務取締役。
中村朱美さん
株式会社minitts代表取締役。1日100食限定のお店「佰食屋」を2012年に開業。
飲食店でのワークライフバランスとフードロスゼロを実現。
門川大作 京都市長
京都市教育長を経て、2008年2月に第26代京都市長に就任。現在4期目。
「もったいない精神」で余すところなく
門川:
本日のゲストはMizkan Holdings専務取締役の中埜裕子さん、minitts代表取締役の中村朱美さんです。まず中村さん、1日100食限定という革新的なスタイルが話題の「佰食屋」さんは、どんな思いで始められたのですか。
中村:
2つ目標がありました。一つは働く人のモチベーション向上。100食というゴールが明確なので90食くらいから社員の気分が上がり、ゴールするとすごい高揚感に。もう1つは食材・労働力とも「無駄をなくすこと」。100食限定なので毎日の仕込み量が決まり、無駄な労働も発生しない。徹底的に無駄を省き働く時間を短く、というコンセプトです。
門川:
多様な働き方を支援する本市の「真のワーク・ライフ・バランス」推進企業表彰も受賞されていますね。それらの発想の源は?
中村:
両親から受けた、時間も物も大事にする教育でしょうか。「お米1粒も残したらあかん。もったいない」と言われ続けて。だからお客様が注文し過ぎたら止めることも。ご飯は10g単位で量を変更できます。京大のあるごみ調査で、佰食屋の食品ロスが1食当たり1.5g(米2~3粒程度)という結果に。他と比べ最大約70分の1にもなりました。
門川:
それは驚きですね。佰食屋さんも含め、本市の「食べ残しゼロ推進店舗」認定店は今や1500軒超。
「ミツカン」さんはお酢で有名ですが、もとは酒造業だったそうですね。
中埜:
1804年、初代・中野又左衛門が、酒造りの副産物の酒粕からお酢を作り始めたのが原点です。お酒を駄目にすることもある酢酸菌発酵を逆転の発想で生かし「甘味と旨味を引き出せるお酢」を作りました。2004年に導入したビジョンスローガン「やがて、いのちに変わるもの。」には、食品といういのちの源を覚悟と責任を持ってお届けしたいとの想いを込めています。
門川:
「食」は自然のいのちをいただき生かされる我々の原点ですね。「もったいない精神」を活かし、京都市では2015年にごみ半減をめざす「しまつのこころ条例」を制定。当時、全国初の食品ロスの削減目標を掲げ、「食べ残しゼロ推進店舗認定制度」など全国をリードする取り組みを進めてきました。2018年には市民1日1人当たりのごみ排出量が399gと政令市では最小に。それでも、ごみ量の15%を占める食品ロスの削減は今なお最重要課題です。
時代を先取りする新たな挑戦
門川:
今年8月にはミツカンさんと「食品ロス削減に資する取組の連携に関する協定」を結びました。「京都の野菜を無駄なくおいしく」をコンセプトに「ZENB PASTE」をはじめ、様々なご提案をいただいています。
中埜:
技術を磨き食品を余すところなく使うミツカンの文化を活かした新ブランドが、素材の栄養をまるごとおいしく摂れる「ZENB(ゼンブ)」です。野菜の皮や種のえぐみ・食べにくさを技術で解消し、おいしく健康的な食生活に貢献する商品です。
門川:
鍋やピクルスのレシピも考案いただき「もったい鍋!ガイドブック」も完成。ミツカンさんとのご縁で、京都市は日本の自治体では初めてエレン・マッカーサー財団の「フード・イニシアティブ」(*1)にも参画しました。コロナ禍で注目の集まる様々な社会的課題に、世界とつながり取り組んでいきます。
*1 世界の主要都市や企業が加盟する、食の循環型経済の確立を目指す国際的な枠組み
中村:
コロナの影響は大きく、私たちも本当に悔しい決断でしたが、2店舗を閉店しました。そんな中、プロの作った料理を食べたいというお声もあって「飲食店は必要とされている」と改めて気づかされました。そこで新たな挑戦としてデリバリーに特化した「ゴーストレストラン」を計画中。カレーなどのデリバリーメニューは、形の悪いお肉でもしっかりと活用できるので食材ロスも減少、災害時も自宅でも楽しんでもらえる。そのきっかけを今から作っていけたらと思っています。
門川:
素晴らしい発想の転換ですね!コロナ禍で京都市内の家庭プラスチックごみは約8%増加(4~7月・前年比)。そこで使い捨て容器などを環境負荷が少ないものにと「京都市宅配及びテイクアウトに係るプラスチック削減助成金」制度を創設。たくさんの申請をいただきました。
中村:
私もさっそく申し込み、袋をバイオマスプラスチック製に切り替えました。リユース食器も共通の器や回収所などのシステムができたら、ぜひ使いたいですね。
門川:
祇園祭では、2014年から「ごみゼロ大作戦」の一環で、全露店にリユース食器を導入。世界初の試みが、大阪・天神祭にも広がっています。
「楽しい」が続けられる理由に
門川:
10月30日は食品ロス削減の日です。本市では、いわゆる3分の1ルール(*2)に着目し、スーパーをはじめ小売店の協力を得ながら「すぐ使うなら消費・賞味期限ギリギリのものを」と呼び掛けを続けています。食品ロス削減には、一人ひとりの心がけが何より大切ですから。
*2 消費・賞味期限の3分の1の期間を残し店頭から撤去する商慣習
中村:
私は、まず使い切ることを大事にしています。私の店では食材を毎日使い切るので、卸売の方も安定受注・収入になると喜んでくださって。皆で安定して豊かになればと思っています。
中埜:
需要が確実に読めるのは、いいですね。
中村:
もう1つ大事なのが、食べられる量を知り、買い過ぎないこと。我が家では食欲にムラがある子どもには少なめに出し「食べきる」ことも大切にしています。
中埜:
健康も環境もまず身近にし、そこに価値や楽しさを感じていただけることが大切。そのために弊社も「おいしさと健康」を限りなく一致させる取り組みを続けていきます。
門川:
人々の幸せと地球の未来を考えた取り組みが、本当に心強いですね。京都市としても、子どもの学びから地球環境まで総合的に捉えた施策に、いっそう力を注いでまいります。 本日はありがとうございました!