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日本の伝統産業を未来につなぐために— 京都の若き担い手と考える。
「文化を継ぐ」ということ

第2回:佐竹美都子さん×大西里枝さん×門川大作市長

profile

佐竹美都子さん

1976年京都市生まれ。同志社大学卒業。2004年アテネ五輪セーリング競技日本代表。
株式会社西陣坐佐織 代表取締役。

大西里枝さん

1990年京都市生まれ。立命館大学卒業。京扇子製造卸・株式会社大西常商店 若女将。

門川大作 京都市長

京都市教育長を経て、2008年2月に第26代京都市長に就任。現在4期目。

「道をつなぐ」思い新たなビジネスへ

門川:

本日のゲストは西陣坐佐織(にしじんざさおり)代表の佐竹美都子さん、大西常商店(おおにしつねしょうてん)若女将の大西里枝さんです。佐竹さんはセーリング競技の日本代表としてオリンピック出場後に、家業を継ぐ決意をされたとか。

佐竹:

きっかけは、海外の選手と交流した時、家の商売がきものなのに日本の伝統文化についてまったく説明できなかったことでしたね。引退後改めて学び、「日本代表は誰かがなってくれるけれど、この家の仕事を継ぐ人は私だけ」と踏み出しました。

大西:

私は、一度は外の世界を見たいと就職。結婚・出産して、自分は京扇子のお商売で大事に育てられたことに改めて気が付いて。自分の子にも「扇子屋という選択肢があるよ」と胸を張りたいと戻りました。

門川:

京都の伝統産業や文化は国内外で高く評価されていますが厳しい状況で、西陣織の生産量は今、最盛期(1975年)の5・2%。そんな中、お二人が覚悟を決めて「道をつなごう」と決意されたことに感激です。あらゆる文化を支える伝統産業(市認定74品目)の多くは、京都・日本の先端産業の母体でもある。例えば、江戸時代の仏具づくりが、今では先端医療機器を担う世界企業に。伝統産業の素晴らしい技術、匠の技、感性からイノベーションが生まれ発展し続けています。お二人の仕事も新しい着想に満ちていますね。

佐竹:

私のブランド「かはひらこ」は大和言葉で蝶のこと。「海を二千キロ渡る蝶のように、厳しい社会を生きる日本女性にきものという羽を」という想いで名付けました。折り目正しく、節目ごとにきものを身に着けるのは、日本の大事な文化。百年後「日本の伝統衣装はきものだった」には、したくないですね。

門川:

ヨーロッパのある国の首相が私のきものをご覧になり感激され、「我が国では、男性の民族衣装がほぼなくなった」とおっしゃったのを思い出します。

佐竹:

時間と手間をかけて着るきものは情緒があり、心も整う。現代こそ必要な気がします。地道に目の前のお客様にきものファンになっていただくのが一番だと、全国を巡っています。

門川:

大西さんは京扇子の技術で商品を開発。「京ものユースコンペティション」グランプリを受賞されましたね。

大西:

もともと京扇子は、床の間に飾ったり、舞や茶道に使ったりと、文化に関連した通年商品でした。ところが今では売上の約8割が春夏。そこで発想を変え、扇子に使う竹でルームフレグランスをつくりました。冬も職人さんに仕事をと、皆で生き抜くポリシーで挑戦を続けています。

創造と変革を大切にコロナ禍を生き抜く

門川:

新型コロナで伝統産業界はさらに厳しい状況です。そこで新商品、新素材、新技術の開発に向けた市独自のつくり手支援として、伝統産業に携わる個人・グループ240組を募集。すると想定を上回る約800件のご応募をいただきました。若い人も多く「厳しい時にこそ、ここで生き抜いていこう、つないでいこう」と嬉しいお声も。今後も「挑戦する人」を応援していきます。

大西:

京扇子の組合でも、抗菌効果のある漆喰(しっくい)を塗った扇子を開発。私の会社でも時間のある今こそとインターネットサービスで在庫情報を管理したり、工芸全体を盛り上げようと、職人さんが独立して生活できる術を学ぶプロジェクトを開始。若手の職人さんを支えるシェアアトリエも計画中です。

佐竹:

私も西陣織をどう残すかという課題に奔走しています。需要の減少、後継者不足と厳しい側面もありますが、逆に熱い「西陣への思い」で、所属や会社の枠を超えてものづくりに協力してくださる方々がいます。「機音(はたおと)を西陣に戻したい」という目標があるので、大先輩方の知識・経験を必死で教わり、なんとか残していきたいですね。

門川:

伝統産業は、変革を大切にしてきたからこそ今がある。和装業界も「業界のあり方を見直そう」と宣言を出され、新たな活動を重ねておられる。本市ではこの3月に京都・岡崎にある「京都伝統産業ミュージアム」をリニューアルオープン。こういう時こそ改革のチャンスと捉え、つくり手と使い手の自由な交流の場を含め、伝統産業ファンの裾野を広げる挑戦を進めています。

千年先も日本の文化を受け継いでいくために

佐竹:

これからもきものが文化であり続けるためには、まず内需をどれだけ充実させるか。東京オリンピック・パラリンピックできものを使ってもらおうと始めた「クールジャパンきものムーブメント」は、日本のきもの文化を世界に知っていただくプロジェクトです。2025年の大阪万博やワールドマスターズゲームズ2021関西もあり、盛り上げていきたいですね。文化庁も京都に来ますし。

門川:

文化庁は機能を強化し、2022年度中に京都に全面的に移転。文化で地方を創生する視点からの国の英断です。文化と経済を両輪とし、その担い手を養成する役割が京都にはあります。各地の地場産業とのつながりも不可欠。政治の中心である東京と、文化の中心地・京都という複眼的な国づくりで、全国を元気にしていきたいですね。

大西:

私も扇子を使う文化ごと、百年先に残したい。この(座談会場の)京町家の茶室や大広間を伝統文化の担い手の方に安価でお貸しし、お茶会や舞・能・三味線のお稽古などに使っていただいているのもそのためです。

門川:

心強いですね。暮らしに息づく生活文化を含め日本の文化をきちんと継承し、新たな文化・産業を創造していく。そのために、若きお二人をはじめ多くの皆様と共に、これからも百年先、千年先の未来を見据えたまちづくりを進めていきます。本日はありがとうございました。