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ウィズコロナ時代、自分と大切な人を守るために今、すべきこと

第1回:山中伸弥教授×門川大作市長

profile

山中伸弥 教授

京都大学iPS細胞研究所所長/教授。2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞。

門川大作 京都市長

京都市教育長を経て、2008年2月に第26代京都市長に就任。現在4期目。

感染収束には、長期的視野が欠かせない

門川:

新型コロナの感染者が再び増えており、市民、事業者の皆様と危機感を共有し、命と健康、暮らしを守るため、対策に全力投球しています。その中で山中先生がホームページで発信されている情報は貴重です。

山中:

私はウイルスの専門家ではありませんが、科学者としてこのウイルスの特徴を知るにつれ「大変なことになる」と危機感を抱き、3月中旬に開設しました。対策に1~2年要するのは間違いないと感じましたから。

門川:

そうした状況を踏まえ、4月に祇園祭の神輿渡御と山鉾巡行の中止を、6月には五山送り火が規模を縮小されるなど、さまざまな行事が大局的な視点で判断されました。

山中:

比較的落ち着いている時期のご英断、素晴らしかったと思います。

門川:

関係者の皆様が、長い歴史を踏まえ決断された。多くの祭などは疫病や自然災害などの治まりを祈り始まりました。「だからやる」のではなく「だから感染拡大の場になってはならない」と。これは偉大な町衆の知恵だと思いましたね。

山中:

まさに長期的な視野が大切だと思います。私はかつて整形外科医でしたが、ケガをしたスポーツ選手は早く復帰したがる。しかし無理した結果、ケガを繰り返してしまう。一方、我慢してしっかり治療すれば、選手生命が伸びることも。同じように目先の経済を考えればいろいろな行事をしたくなりますが結局、繰り返し制限が必要になりかねません。

門川:

教訓にしたいですね。

山中:

世界の対策と結果を見てお手本になると思うのはニュージーランドです。外出制限を含む厳しい制限を徹底的に続けた結果、感染者がほぼゼロに。今、日本も完全に抑えこむため知恵を絞る必要がある。ただ、言うは易しで、科学・経済両方の意見があるなかでの判断は、非常に難しいものだと思います。

ハイリスクに焦点を当てた効果的な対策を

門川:

京都市では新規感染者が判明した場合、全国に先駆けて、国の基準を超えた独自基準で広範囲のPCR検査を徹底して実施し、集団感染・クラスター対策を進めてきました。加えて山中先生のiPS細胞研究所や京大病院のご支援を得て、大規模な抗体検査とPCR検査も7月から開始。医療、福祉、教育、保育、市民サービス等のリスクの高いスタッフ約2千人に2~3カ月ごとに検査を繰り返し行い、感染対策に役立てていきます。

山中:

全自動PCR装置は1台1千〜2千万円程ですが、国もこうした装置に予算を投じれば、検査能力は一気に上がると思います。

門川:

京都市も全自動PCR装置や、だ液検査を導入。府や民間、京大等とも連携し、検査体制を抜本的に拡充します。4月からは、妊婦さんの希望者全員にPCR検査を独自に実施しており、受診した約1600人(*1)全員が陰性です。全国初のこの取り組みは全国にも広がりました。

山中:

対策の基本は、必要な場所で必要な時に検査をすること。今は京都府民の1%も感染していませんから、病院や介護施設などにいるハイリスクの人を重点的に検査して陽性なら自宅や病院へ、を繰り返す。この徹底で経済へのダメージも少なくできます。

門川:

また、接待を伴う飲食店・キャバクラ・カラオケ等でクラスター発生が多発しています。業種別にガイドラインを作っておられますが、その徹底が必要で、府・市・経済界等のオール京都でステッカーを店等に掲示していただくことにしました。また、クラスター発生の店を市の幹部職員からなる「対策チーム」が現地調査。すると、ガイドラインを知らないという事業者も。そこで、市内約2万軒の飲食店に①ガイドラインの遵守、②ステッカーの掲示、③京都市新型コロナ「あんしん追跡サービス」の活用を求める緊急通知文を発送し、クラスター発生時の店舗名公表の目安もお知らせしました。そうした中、京都では感染経路の約7割近くまでを把握していますが、最近は厳しくなってきています。

山中:

かなり高いですね。保健所などの現場の方がものすごく努力されていると思います。

門川:

京都市の保健師は333名(4月1日現在)で、人口1万人当たり約2.3人と、人口100万人以上の政令指定都市では最多。皆、使命感に燃え、懸命に働いてくれています。

山中:

もっと普及すれば保健師さんの負担も軽減すると思うのが、厚労省の接触確認アプリ「COCOA(ココア)」。個人情報は残らず、感染判明者の近くに一定時間以上いた場合だけ通知が届きます。

門川:

本市の「あんしん追跡サービス」も、ぜひご活用ください。

ウィズコロナ時代、心をひとつに立ち向かう

山中:

まだまだ不明な点が多く、対策について世界共通の正解はないウイルスです。日本では今後も都市封鎖せずとも収まるという最善の結果を、私も心から願っています。しかし科学者としては「このウイルスは最悪ここまでやりかねない」という発信も義務だと考えています。
また、医療従事者や感染者の方への差別や中傷もありますが、足の引っ張り合いは何の得にもなりません。皆でお互いにフォローし合い、乗り越えていければと思います。

門川:

絆・お互いさまの気持ちを大切にと、京都市の「支え合い基金」にたくさんのご寄付をいただいています。また、市議の報酬減額分も含めて、市内2400の医療機関、4100の社会福祉施設等に支援金をお届けしました。コロナ禍のもと、心ひとつに困難に立ち向かう大切さを改めて実感しています。
「正しく恐れる」。市では、正しい情報を分かりやすくお伝えしますので、市民の皆様は「うつらない」「うつさない」ための「新しい生活スタイル」の徹底をお願いします。本市としても、医療・検査の体制強化はもとより、共々に命と健康、暮らしを守り、中小企業、経済、雇用の維持発展のために全力を尽くしてまいります。山中先生、今後もご指導をお願いします!

(本文中のデータや状況は対談が行われた2020年7月31日時点のものです)
(*1)公表にご協力いただいた医療機関における検査の合計数