[監査]

○公表


監査公表第483号


京都市職員措置請求及び監査結果公表
 地方自治法第242条第4項の規定により,標記の請求に係る監査を行ったので,請求文及び請求人に対する監査結果の通知文を次のとおり公表します。
  平成15年5月23日
京都市監査委員 井上 一郎
同    安孫子 和子
同     下薗 俊喜
同      奥谷 晟



 京都市職員措置請求書

京都市職員措置請求書
2003年4月16日
京都市監査委員 様
請求人
(住所)京都市右京区
(氏名)牧 野 憲 彰
地方自治法第242条第1項の規定にもとづき,以下のことを求める。
〔請求の要旨〕
(1) 京都市は2003年3月7日,02年度の自立促進援助金2億0286万3585円の支出を決定した(添付資料1)。自立促進援助金とは,「自立促進援助金支給要綱」にもとづき,「同和関係者の子弟の自立を促進するため」(要綱第1条),「その属する世帯の所得,就労等の生活実態から貸与を受けた奨学金等を返還することが困難であると市長が認めたものに対し,支給する」(同第2条)ものである(添付資料2)。
(2) しかし,実際の運用は,市長は同和奨学金貸与者全員を「返還困難」と認定し,返還をすべて肩代わりしている。これまで同和奨学金を自己返済したケースは一例もないという異常な実態にある。また,市が同制度の申し込みを同和奨学金貸与者から受け付ける際,貸与者やその属する世帯が返済困難であることを証明する所得や健康状態などに関わる書類の提出を求めておらず,同和奨学金担当市職員の面接による状況確認だけで,市長は同制度の適用を決めている。さらに,同和奨学金の返済は最長20年分割でおこなわれるが,市長は返済初年度に自立促進援助金の支給を決定すると,以後20年間,いっさい審査することなく支給を継続している(添付資料3)。
(3) 自立援助金制度運用の実態は,同制度の趣旨に違反する違法なものであるとして,本請求人牧野は,02年9月20日,1997〜2001年度に支出した自立促進援助金7億2796万5395円について,支出決定した市職員は市に同額を返還するよう求める住民監査請求を行なった。監査委員の監査結果は,一部棄却,一部却下という判断だった(添付資料3)。
 今回なお,同趣旨の請求を行なうのは,このときの監査で市側の行なった説明に重大な虚偽があるからである。
 市は同和地区住民の生活保護受給率の高さなどを例示して,「生活基盤のぜい弱さは依然として解消されていない」と主張し,同和奨学金貸与者全員の返還を肩代わりしていることの根拠とした(同前)。
 たしかに貸与者のなかには生活基盤がぜい弱な人はいるかもしれないが,貸与者全員の生活基盤がぜい弱だとはとうていいえない。文化市民局人権文化推進部が行なった「平成12年度京都市同和地区住民生活実態把握事業・中間集計」(以下,「中間集計」という)によると,平成3年度時点で,年収500万円以上を得ている世帯は,地区内の40.4%,平成12年度時点でも,23.2%にのぼる(添付資料4)。これら500万円以上の収入を得ている世帯の中に,同和奨学金貸与者・世帯がどれだけ占めているかは不明だが,いずれにしても地区全体の生活基盤がぜい弱であるとはとうていいえない。
 また「中間集計」によると,平成3年度時点での,地区内有業者のうち,京都市職員が占める割合は36.2%,平成12年度時点でも34.5%にのぼっている(同前)。やはり,地区住民の生活基盤は一様にぜい弱であるなどとはいえない。
(4) なお,前回の本請求人による請求に対し,監査結果では監査委員の合議による次の意見が付記されていた。すなわち,「制度のより一層の公平性,平等性の確保の観点からは,客観的な証明に基づき,支給の申請のあった一人一人について,適時に支給要件を満たすか否かを判断していくことが望ましく,そのことが支給要綱の規定の趣旨にもより合致するものであると考えるので,事務の改善について,検討を行なわれたい」(添付資料3)。
 ところが,その後も市は制度運用の改善を怠っている。報道によると,02年度の自立促進援助金も上記のような実態,すなわち,「02年度も返還義務者全員に,自立促進援助金の支給を行なった。自分で返済している人は一人もいない」(市人権文化推進課職員の話)ということである。また,03年度も自立促進援助金をふくむ「進路支援事業」には前年度並の予算が組まれている(添付資料5)。結果的に,監査委員の意見を無視しているのである。
(6) 要するに02年度の自立促進援助金の支出は自立促進援助金支給要綱に反する違法なものである。監査委員において,以上の事実に関する厳正な監査を実施され,02年度における違法な自立促進援助金支出決定を行なった職員にたいし,同額を京都市に返還するよう必要な措置をとるよう求める。
 念のために記すと,次のようになる。
 返還請求を行なうものは,京都市
 返還請求の相手方は,自立促進援助金の最終決定者高木壽一氏(副市長)
 返還請求額は,2億0286万3585円
 注 事実証明書の記載を省略した。



請求人に対する監査結果通知文

監第43号
平成15年5月16日

 請求人 牧 野 憲 彰 様
京都市監査委員職務執行者 高橋 泰一朗
同        宮本 徹
京都市監査委員 下薗 俊喜
同     奥谷 晟



京都市職員措置請求に係る監査の結果について(通知)
 平成15年4月16日付けで提出された地方自治法(以下「法」という。)第242条第1項の規定に基づく京都市職員措置請求について,監査した結果を同条第4項の規定により通知します。
第1 請求の要旨
 1 京都市(以下「市」という。)は,平成15年3月7日,平成14年度の自立促進援助金(以下「援助金」という。)2億286万3,585円の支出を決定した。
 援助金とは,自立促進援助金支給要綱(以下「支給要綱」という。)に基づき,「同和関係者の子弟の自立を促進するため」(支給要綱第1条),「その属する世帯の所得,就労等の生活実態から貸与を受けた奨学金等を返還することが困難であると市長が認めたものに対し,支給する」(支給要綱第2条)ものである。
 2 しかし,実際の運用は,京都市長(以下「市長」という。)は同和奨学金貸与者(以下「貸与者」という。)全員を「返還困難」と認定し,返還をすべて肩代わりしている。これまで同和奨学金(以下第1において「奨学金」という。)を自己返済したケースは一例もないという異常な実態にある。また,市が援助金制度の申込みを貸与者から受け付ける際,貸与者やその属する世帯が返済困難であることを証明する所得や健康状態などに関わる書類の提出を求めておらず,奨学金担当市職員の面接による状況確認だけで,市長は同制度の適用を決めている。更に,奨学金の返済は最長20年分割で行われるが,市長は返済初年度に援助金の支給を決定すると,以後20年間,一切審査することなく支給を継続している。
 3 援助金制度運用の実態は,同制度の趣旨に違反する違法なものであるとして,本請求人牧野は,平成14年9月20日,平成9年度から平成13年度までの間に支出した援助金7億2,796万5,395円について,支出決定した京都市職員(以下「市職員」という。)は市に同額を返還するよう求める住民監査請求(以下「前回監査請求」という。)を行った。監査委員の監査結果は,一部棄却,一部却下という判断だった。
 今回なお,同趣旨の住民監査請求を行うのは,この時の監査で市側の行った説明に重大な虚偽があるからである。
 市は同和地区住民の生活保護受給率の高さなどを例示して,「生活基盤のぜい弱さは依然として解消されていない」と主張し,貸与者全員の返還を肩代わりしていることの根拠とした。
 確かに貸与者の中には生活基盤がぜい弱な人はいるかもしれないが,貸与者全員の生活基盤がぜい弱だとは到底言えない。文化市民局人権文化推進部が行った「平成12年度京都市同和地区住民生活実態把握事業 中間集計」(以下「中間集計」という。)によると,平成3年度時点で,年収500万円以上を得ている世帯は,地区内の40.4パーセント,平成12年度時点でも,23.2パーセントに上る。これら500万円以上の収入を得ている世帯の中に,貸与者・世帯がどれだけ占めているかは不明だが,いずれにしても地区全体の生活基盤がぜい弱であるとは到底言えない。
 また中間集計によると,平成3年度時点での地区内有業者のうち,市職員が占める割合は36.2パーセント,平成12年度時点でも34.5パーセントに上っている。やはり,地区住民の生活基盤は一様にぜい弱であるなどとは言えない。
 4 なお,前回監査請求に対し,監査結果では監査委員の合議による次の意見が付記されていた。すなわち,「制度のより一層の公平性,平等性の確保の観点からは,客観的な証明に基づき,支給の申請のあった一人一人について,適時に支給要件を満たすか否かを判断していくことが望ましく,そのことが支給要綱の規定の趣旨にもより合致するものであると考えるので,事務の改善について,検討を行なわれたい」。
 ところが,その後も市は制度運用の改善を怠っている。報道によると,平成14年度の援助金も上記のような実態,すなわち,「02年度も返還義務者全員に,自立促進援助金の支給を行なった。自分で返済している人は一人もいない」(市人権文化推進課職員の話)ということである。また,平成15年度も援助金を含む「進路支援事業」には前年度並の予算が組まれている。結果的に,監査委員の意見を無視しているのである。
 5 要するに平成14年度の援助金の支出は,支給要綱に反する違法なものである。監査委員において,以上の事実に関する厳正な監査を実施され,平成14年度における違法な援助金支出決定を行なった市職員に対し,同額を市に返還するよう必要な措置を取るよう求める。
念のために記すと,次のようになる。
返還請求を行う者は,京都市
返還請求の相手方は,援助金の最終決定者木壽一氏(副市長)
返還請求額は,2億286万3,585円
第2 監査の実施
 1 監査の期間中,文化市民局関係職員に対し,関係書類の提出及び説明を求めた。
 2 法第242条第6項の規定に基づき,請求人に対し証拠の提出及び陳述の機会を与えたところ,請求人から新たな証拠の提出及び陳述は行わない旨の内容を記した文書の提出があった。
第3 監査の結果
 1 事実関係
(1) 援助金は,同和問題の解決を図ることを目的として,市内の同和地区に居住する同和関係者の子弟の自立を促進するため,「京都市地域改善対策奨学金貸与規則」の規定による奨学金(以下「市奨学金」という。)の貸与を受けた者のうち,その属する世帯の所得,就労等の生活実態から貸与を受けた市奨学金を返還することが困難であると市長が認めた者に対し,支給要綱に基づき支給されるものであり,昭和59年4月1日に設けられた。
(2) 昭和62年度から国庫補助の対象となっている市奨学金について貸与の対象者に係る収入基準を設けたことに伴い,市は,これまでと同様に高等学校若しくは高等専門学校(以下「高校等」という。)又は大学(短期大学を含む。以下同じ。)に進学しようとする者を引き続き支援するため,同時期に「京都市地域改善対策就学奨励金」(以下「就学奨励金」という。)制度を設け,昭和62年4月1日以降に入学した者から貸与の対象とした。
 これに対応するため,昭和63年3月31日に支給要綱の改正を行い,就学奨励金の貸与を受けた者も援助金の支給の対象とすることができるようにした。
(3) 法第232条の2には,「普通地方公共団体は,その公益上必要がある場合においては,寄附又は補助をすることができる」と規定されており,援助金は同条に規定する補助に該当する。
(4) 平成5年7月,市は広く同和施策全般にわたって見直しを行い,また平成8年11月には京都市同和問題懇談会から提出された「今後における京都市同和行政の在り方について」の意見具申を受けて,同和施策の見直しを行った。
 そして,平成14年1月に市が同和問題の早期解決に向けた平成14年度以降の取組の在り方をまとめた「特別施策としての同和対策事業の終結とその後の取組」(以下「終結とその後の取組」という。)においては,同和行政の成果として,教育及び就労に関し,高校進学率は全市とほぼ格差のない状況となり,大学進学率についても大きく向上したこと,こうした教育保障施策の成果等により,住民の就労状況は,若年層を中心に幅広い分野への進出が見られるようになってきたと述べるとともに,教育に関する残された課題として「過去のおしなべて低位な実態が大きく改善されてきたとはいうものの,(中略)高校進学の内容,高校中退率及び大学進学率の格差などの課題が残されています。更には,ひとり親家庭,経済的支援を受けざるを得ない家庭等,厳しい状況に置かれている家庭もあり,児童,生徒の教育に大きく影響しています」と述べている。
(5) 平成14年3月31日をもって,地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律の期限が到来し,市奨学金は廃止されたが,教育に関してはなお残された課題があるとの認識に基づき,就学奨励金については,貸与の対象者に係る収入基準,貸与金額を見直したうえで経過措置として平成14年度から5年間継続され,援助金制度についても継続されることとなった。
(6) 援助金は,援助金の支給を受ける者がその年度に返還すべき市奨学金又は就学奨励金(以下「奨学金等」という。)の額の範囲内において市長が定める金額が年1回支給されている。
(7) 平成14年度に支出された援助金は2,700人分202,863,585円で,平成15年3月7日に支出決定が行われ,同年3月31日に,京都市一般会計予算の正当な予算科目である(款)03文化市民費,(項)04人権文化費,(目)01人権文化推進費,(節)19負担金補助及び交付金から支出されていた。
 支出された202,863,585円の内訳は,高校等に在学する者を対象とする奨学金等の貸与を受けた者に対するもの1,917人分105,325,250円,大学に在学する者を対象とする奨学金等の貸与を受けた者に対するもの783人分97,538,335円であった。この金額は当該年度に返還すべき奨学金等の額と同額であった。
 なお,平成14年度の支給対象者は,昭和63年3月から平成14年3月までの間に奨学金等の支給の対象となる学校を卒業又は退学した者である。
(8) 支給要綱第2条に規定する「その属する世帯の所得,就労等の生活実態から貸与を受けた奨学金等を返還することが困難であると市長が認める」具体的な基準は定められていなかった。また,援助金の支給の決定に際し,援助金の申請をした者(以下「支給申請者」という。)に,当該支給申請者が属する世帯の所得状況や就労の状況を証する書類(以下「所得証明等」という。)の提出を求めていなかった。
(9) 援助金制度について,平成14年4月1日から実施された改正事項はなく,その制度内容は,平成13年度と同じであった。
(10) 平成14年度の援助金については,平成14年2月に「地域改善対策奨学金等 地域改善対策就学奨励金等の貸与を受けてこられた方へ」というお知らせを配布して,制度及び手続きについての周知が行われており,援助金の申請に必要な書類については,平成14年4月19日までに隣保館(現コミュニティーセンター。以下同じ。)に提出するように記載されている。
(11) 平成12年度京都市同和地区住民生活実態把握事業は,住民の生活諸実態を的確に把握するもので,これまでの同和対策事業の効果を測定するとともに,今後の同和問題の解決のための基礎資料として役立てることを目的に,平成13年1月16日を基準日として実施されたものである。中間集計は各項目の基本的数値について集計したもので,平成13年9月に取りまとめられたものである。
 2 文化市民局関係職員の説明
(1) 同和地区住民の教育の機会均等を保障し,将来の就職の機会の拡大を図り,自立の促進に結びつけていくことが,同和問題を解決していくうえで,最も重要であることから,奨学金等,援助金制度をはじめとする進路支援事業を積極的に進めてきた。
 これらの取組と住民の努力により,高校等,大学への進学率の向上,より幅広い分野への就労など,大きな成果を挙げてきた。
(2) 援助金制度については,制度創設時から「その属する世帯の所得,就労等の生活実態から貸与を受けた奨学金等を返還することが困難である」と認める具体的な基準は定めておらず,また所得証明等の提出も求めて来なかった。これらの点については,平成14年度の援助金についても,平成13年度以前と同様である。
(3) これは,次のような実態を踏まえてのものである。
 制度創設時の京都市の生活保護受給率が1.4パーセント(昭和55年国勢調査による)であるのに対し,同和地区は17.1パーセント(昭和59年度京都市同和地区住民生活実態把握事業による)であり,当時の同和地区の生活基盤は極めてぜい弱であった。
 平成11年度の京都市の生活保護受給率が3.1パーセント(京都市統計書平成12年度版による)であるのに対し,同和地区の生活保護受給率は17.9パーセント(中間集計による)で,市全体の生活保護受給率の約6倍近くあるうえ,制度創設時とほとんど変わらず,依然として生活基盤のぜい弱さが解消されていない状況が見られる。
 援助金の支給申請者は,奨学金等の貸与を受けた者である。当該奨学金等の貸与に際しては,世帯全員の住民票及び所得証明等の提出を求め,各々設けられている所得基準に照らして貸与を決定している。
 奨学金等の貸与者については,在学期間中,毎年度,家庭状況報告書を提出させており,援助金申請時には隣保館の職員が本人又は家族と面談し,主たる生計維持者の就労状況などの家庭状況の把握に努めてきている。
 平成14年11月18日に監査委員から意見が提出されて以降,改善に向けて検討を続けてきたが,時間的な制約もあって,現時点では,成果を得られていない。
 また,本件監査請求に係る平成14年度の援助金については,前回監査請求に係る監査結果が出る前の平成14年2月に制度の周知を行い,同年4月19日に申請書類の提出を締め切った。
 申請書類の提出締切後に,制度に変更を加えることは,実質的に制度のそ及変更となり,変更内容の周知,申請書類の再提出が必要になるほか,一度受理した申請を無効にしなければならないことも考えられ,これらのことが現実のものとなると,申請者間に混乱が生じるおそれは十分にあった。こうした点を考慮すると,平成14年度分からの制度変更は極めて困難であった。
 平成14年度末(平成15年3月)の高校等又は大学の卒業生に対しては,奨学金等は貸与であり,返還義務があることのほか,援助金についても返還困難な状況が改善され,自ら返還を希望する者は援助金の辞退届を提出すること等をパンフレットで周知した。
(4) これまで様々な分野において同和対策事業を進めてきた結果,様々な面で存在していた格差も改善され,おしなべて低位な状況は見られなくなってきており,今後の行政の役割は,住民の自立のための支援を行っていくことになると考えている。
 援助金制度については,支給を新たに申請する者のみならず,既に支給決定を受けた者についても,奨学金等の返還が困難であるという状況にあるかどうかを継続して把握することは,重要であると認識している。
 平成14年11月18日付け監査結果に付された監査委員からの意見並びに本制度の意義やこれまで果たしてきた役割を踏まえつつ,市民の今日的な理解を得られる制度となるように,支給に係る基準を定めること,客観的な証明に基づいて所得判定を行うことについて,早期の実現に向け,様々な角度から引き続き検討を行っている。
 3 監査委員の判断及び結論
(1) 平成14年度の援助金については,前回監査請求に基づき監査を実施した平成13年度の援助金と制度面での変更は行われていなかったうえ,平成14年2月には奨学金等の貸与者に対して,援助金制度の周知を行い,同年4月19日には援助金の受給申請に係る書類の提出を締め切っている。すなわち,前回監査請求が行われた時点においては,平成13年度の援助金と同内容の平成14年度の援助金制度について,既に周知が行われ,申請書類も受理されていたということになる。
(2) 既に申請を受理した後に,周知期間も短くならざるを得ない状況において,支給申請者にとって不利に制度をそ及改正すると混乱を招くおそれがあるという市の主張は,理解できないことではない。
(3) 請求人は,中間集計に年収500万円以上の世帯が地区内の世帯の23.2パーセントを占めることや地区内有業者の34.5パーセントを市職員が占めることが記載されていることを取り上げて,同和地区全体の生活基盤や同和地区住民の生活基盤が一様にぜい弱であることは到底言えないと主張している。
 確かに中間集計を見ると,世帯年収も幅広く分布しており,有業者の税込み年収も世帯年収同様に幅広く分布していることがわかる一方,生活保護受給世帯が一定割合を占めていることもわかる。
 しかしながら,中間集計に示されていることと奨学金等の貸与を受けた者やその者が属する世帯との関係は明らかになっていないことも事実である。
(4) 以上のことから,平成14年度の援助金についても,平成14年11月18日付けで行った平成13年度の援助金についての「制度の運用面で適切とは言えない部分があるものの,おおむね法第232条の2の規定の趣旨に沿ったものであり,違法又は不当なものであるとするに足りる事由は認められなかった」という判断を変更する特段の事情は認められない。よって,本件請求は棄却する。
 4 市長に対する要望
 平成14年度の援助金についての監査委員の判断は以上のとおりである。
 市においては,市民の共感が得られる制度となるよう,早期の改善実現に向け,現在,様々な角度から検討が行われている。
 ところで,中間集計には,世帯年収や有業者の税込み年収も幅広く分布しているという実態も示されている。したがって,検討に際しては,奨学金等の貸与を受けている者の現状を把握し,その把握の結果及び平成14年11月18日付けで市長に対し提出した意見を踏まえたうえで,すべての貸与者を対象に,支給に係る基準を定めること,客観的な証明に基づいて所得判定を行うことについて,早急に対応されるよう重ねて要望する。

(監査事務局第一課)

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