有権者になるということは,権利を持つということ,特に政治について重要な役割を持つ選挙等に参加する権利を持つということです。ただ,本当に権利を持つということだけなのでしょうか。
政治に参加するということはどういうことなのかから考えてみましょう。
皆さんにとって,政治の一番分かりやすい役割は,お金の集め方や使い道を決定するということかもしれません。地域の住民や国民からどのように税金を集め,集められた税金をどのように使うか決定するということは政治の大きな役割です。
その中で,使い道を決定する権利を得たと言っても,個人の自由になるわけではありません。何に,どれくらい使いたいかは,人によって異なります。それは,生きる上で何が大切かということについての考え方が違うからです。そのため,異なる考え方に基づく様々な意見を調整し,まとめる必要があります。
また,国家や社会のルールを作ること,社会の秩序を維持し統合を図ることも政治の大きな役割ですが,こちらも個人や団体の考え方や意見,利害の対立を調整し,解決することが必要なのです。
我が国ではこのような役割を持つ政治は間接民主主義の原則に基づき行われています。選挙とは,このような政治に参加する手段の一つであり,国民や地域の住民から選ばれた代表者が議会で法律や予算を決定する制度をとっている我が国において最も重要な手段なのです。
有権者になるということは,選挙等を通じてこのような政治の過程に参加する権利を得ることです。同時に,政治に参加しても必ずしも自分の意見が通るわけではありませんが,国民や地域の住民の意思に基づき選ばれた議員が皆の意見を議論し合意された決定に対しては,構成員の一人として従うという義務が生じることとなるのです。
また,自分の意見が通るわけではないからといって,政治に参加するのをやめてしまうと,一部の人の考えだけに基づいて政治が行われることになりかねません。政治が,世代や職業など様々な背景を持ち,多様な意見を持つ人々の意思を反映して行われるためには,みんなの知恵を集めていくことが求められます。
誰かに任せるのではなく,積極的に選挙を通じて,課題について調べ,考え,自分なりに判断し,政治に参加していくこと,これも権利であり,国家・社会の形成者としての責務とも言えるものなのです。
選挙権年齢が満20歳以上から,満18歳以上に引き下げられました。
これは,皆さんが,様々なメディアを通じ多様な情報に接し,自分の考えを育んできた世代であり,また,少子高齢化の進む日本で未来の日本に生きていく世代であることから,未来の日本の在り方を決める政治に関与してもらいたいという意図があるのです。
なお,世界的にみると,18歳までに選挙権が認められている国は全体の約92%であり,今回の引下げは世界の流れにも沿ったものとも言えます。
政治的な課題は複雑な物事が絡み合っており,判断することは容易ではありません。
これまでの歴史,つまり今まで受け継がれてきた蓄積や先人の取組や知恵といったものを踏まえ,現状を適切に理解し,未来に向けて課題を解決していくためには,政治的な教養を育むことが必要です。
政治的な教養を育むとは具体的には,まず,政治の仕組みや原理について知ることはもちろんのこと,政治が対象とする社会,経済,国際関係など様々な分野において日本の現状はどうなっているのか,また課題は何かといったことについて理解することが必要です。
また,政治とは自分で判断することが基本ですので,課題を多面的・多角的に考え,自分なりの考えを作っていく力が必要です。
さらには,各人の考えを調整し,合意形成していく力も政治には重要であり,とりわけ,根拠をもって自分の考えを主張し説得する力を身に付けていくことが求められます。
是非,政治的教養を育み,その成果を生かして有権者として政治に参加してください。