筆塚碑 碑文の大意
 小野英棟は商業に従事し,性格は謹み深く慈愛に満ち,深く仏教に帰依していた。かつて三十万の放生を行い,法華経六十六部をたびたび書経し,六十六か国の霊場に納めた。また,一石一字を洛東の某寺に奉納した。そのほか写経などを奉納することがたび重なった。年月がたち,写経などで使った使い古しの筆が山のように貯まってしまった。そこで菅原道真の廟(北野天満宮)に筆塚を建て,わたし(筆者露電散人)が碑文の執筆を頼まれた。
 そもそも放生や写経の功徳は限りないものがある。仏教で説くところにわたしが加えるべきことはない。英棟のような人物は実にまれな存在である。こうした人にとって家業の繁栄や子孫の孝行はいうまでもないことである。